走れ小心者 ARMADA はてなブログ版

克森淳のブログ。特にテーマもなくゆるゆると。

天狗倶楽部と『ゲゲゲの人生展』と『いだてん』と

 去る8月16日、医者に行ったあと八丁堀の丸善ヤマダ電機に併設)で横田順彌『〔天狗倶楽部〕快傑伝 元気と正義の男たち』を買い、その足で広島県立美術館の『ゲゲゲの人生展』を見た。方々への支払いなどもあってけっこう散財したが、後悔はしていない。

 『〔天狗倶楽部〕快傑伝』は、このブログでも何度か取り上げた、明治のSF作家にして雑誌の主筆でもあった押川春浪らにより発足したバカやったりスポーツやったりしていた団体、「天狗倶楽部」についての本だ。1993年に朝日ソノラマから発行されたあと絶版になっていたが、この度朝日新聞出版の朝日選書で復刻された。ヤハリ天狗倶楽部が大河ドラマ『いだてん』に出たからですかねえ? 作者の横田も生前*1『いだてん』に関わっていたが、途中で面倒になり手を引いたそうだけど。『いだてん』で描かれた天狗倶楽部も物議をかもしたが、史実の天狗倶楽部はもっと酷かった。野球やテニスなど、日本の近代スポーツにおいて功績の大きい人たちのはずなのに、とにかく尾籠なエピソードが付きまとう。尾籠すぎて、ここへも書くに書けない。しかしスポーツ振興などにおいては無私になって尽力していたためか、今時のバカッターみたいないやらしさは感じないのよね。あるいは時代が経ちすぎて、「歴史」として受け取っているからか。

 天狗倶楽部メンバーによるスポーツ振興の一例として、今回は河野安通志(こうの・あつし)らによって大正10(1921)年に日本最初のプロ野球球団「日本運動協会」が設立されたのを挙げよう。興行的には失敗し、解散を余儀なくされるんだけど、「日本運動協会」設立以前から天狗倶楽部メンバーの作家、柳川春葉(やながわ・しゅんよう)などが日本にもプロ野球を作るべきだと言っていたので、有言実行とは言える。マー、天狗倶楽部は大正3(1914)年の春浪の死から自然消滅の道をたどったため、天狗倶楽部と言う団体としてプロ野球を創設しようとしたわけではないんだが。それにしても、正力松太郎は日本の野球史も歪めてたのか、酷い話だ。いえね、日本のプロ野球の歴史は正力の立ち上げた巨人からスタートしたかのように喧伝され、オレも長らくそう思っていたけど、今回「日本運動協会」の件を知って驚き、ただでさえ低いオレの中の正力松太郎への評価がますます低くなった。テレビや原発だけでなく、野球にも悪い影響与えていたのかと。確かに河野安通志は野球殿堂入りしたけど、力で歴史が曲げられたような気がしてねー。

 尾籠なエピソードはあれど、多数の天狗倶楽部メンバーは、とにかく欲がない。リーダーの春浪にしてからが、当時の人気作家であるにも関わらず、印税でなくて原稿買い切りで執筆していたし。と言うか、面白エピソードが多くて、あとはご自分で買ってお読みなさいとしか。

 ところで、『〔天狗倶楽部〕快傑伝』を買ったあと『ゲゲゲの人生展』を見に行ったと最初に書いたが、有名人からの追悼メッセージに、『いだてん』の脚本の宮藤官九郎と、のちに志ん生となる美濃部孝蔵役の森山未來両氏のものがあった。奇妙な縁を感じます。『いだてん』と言えば、『〔天狗倶楽部〕快傑伝』における三島彌彦*2の記述が、かなり『いだてん』での描写に近かった。マー、オリンピック参加者の記録を丹念に追えば、だいたい似たような内容にはなるんだけど。あと、三島の退場にあわせたためか、『いだてん』における天狗倶楽部は「明治の終わりとともに消えた」かのように描かれていたけど、史実ではそんな事はなかった*3んだよな。横田が途中で『いだてん』制作の協力から降りたのは、この辺のせいか。ところで、『ゲゲゲの人生展』に話を戻せば、展示こそなかったが、水木しげるは少年時代にオリンピックを題材にした作文を書いた事があると、『昭和史』で描いていた。ますます奇妙な縁に繋がれた一日だったわい。

*1:今年、2019年に逝去。

*2:『いだてん』では三島弥彦

*3:前述のように、春浪の死から自然消滅の道はたどるが、それでも「憲政の神様」と呼ばれた尾崎行雄なんかが入ったりもしている。